島本和彦主催[HOOP HYSTERIA]バスケットボールファンクラブ
吉川 哲彦の「だむだむ探検隊」

血は争えない? 争える?〔2007.2.8〕

今年も新春恒例、オールジャパン(全日本総合選手権)に行ってまいりました。全国のいろんなチームを一度に見られるわけですが、今回の参加チームを見てみると、どうも“血縁関係”の多さが目につきます。ざっと挙げていくと、山形大・大神訓章監督&JOMO・雄子選手(娘)、延岡学園高・北郷純一郎監督&OSG・謙二郎選手(息子)、JOMO・内海知秀HC&東海大・慎吾選手(息子)&JOMO・亮子選手(娘)、日体大・吉田沙織選手(姉)&JOMO・亜沙美選手etc.……
そして何より、忘れてはいけないのが公輔&譲次の竹内兄弟。ですが、彼らに触れる前に取り上げておかなければならない血縁関係があります。去年も取り上げた、あのチームの血のつながりです。

Wリーグには姉妹を2組抱えるチームが2チームあります。一つは日立ハイテクノロジーズ(渡辺由穂&華穂、畑有希&千晶)、もう一つが昨年の覇者・富士通です。富士通の場合、2組の姉妹が全員不動のスタメンというのが凄いところ。その富士通はリーグ戦3クール終了時点で17勝4敗、堂々の1位シードでオールジャパンに臨みました。
2回戦からの登場となった富士通は、鹿屋体育大と日立ハイテクを一蹴、準決勝のトヨタ自動車も寄せつけず、順当に決勝に進みます。相手は昨年と同じシャンソン化粧品。当然ながら「昨年のようにはいかない」とリベンジに燃えてくるでしょう。しかしリベンジに燃えていたのは、リーグ戦で1勝2敗と負け越している富士通のほうでした。
1Qこそシャンソン相澤優子のドライブに手を焼きますが、2Q以降は2組の姉妹が本領を発揮。矢野優子・良子が次々に得点を決め、船引姉妹の妹・まゆみの動きにもキレがあります。残り3分を切った頃に姉・かおりが4ファウルでベンチに下がるものの、オールラウンダーの6thウーマン今美春がそれを補って余りある活躍を見せ、終了間際には今のブザービーター狙いのシュートがゴール下にいた船引まゆみへのスーパーパスとなり、これで2点リードして俄然勢いに乗りました。
後半は富士通の厳しいディフェンスにシャンソンがミスを連発、リバウンドやルーズボールでも富士通が優位に立ちます。シャンソンは大黒柱の永田睦子が相澤とともに奮闘しますが、前半4本の3ポイントを決めた渡辺由夏は後半無得点、三木聖美は1試合を通じて持ち前の得点力を発揮できず、相澤と永田以外が完全に抑えられてしまいました。一方の富士通は矢野姉妹が計42点、船引姉妹が計21点と、4人で全87得点中63得点。姉妹パワーを見せつけて、富士通を連覇に導きました。
試合後の会見で中川文一HCは「去年はラッキーだったが、今年は地力がついてきたという実感があったので、対等に勝負できた。体力はウチのほうがあるから、前半イーブンならいけると思った」と1年間の成長と絶対の自信を強調していました。唯一ピンチだったのは船引かおりが4ファウルになった時ですが、主力全員が「全く心配してなかった」と口を揃え、選手達も確かな自信をのぞかせました。
また、誰もが「勝てば2連覇という意識はなく、いつも通りにやった」と言い、矢野良子が「トヨタとシャンソンはリーグの3クール目で負けた相手なので、リベンジを目標に戦った」と言ったあたりにも、大舞台を制するに相応しい精神力を身につけたことが見てとれます。「去年はこの後失速したので、ここからまた気を引き締めたい」(船引かおり)という言葉も非常に頼もしく感じられました。“あうんの呼吸”という最大の武器がある富士通、2冠の期待が高まるというものです。

そして話は竹内兄弟に移ります。実は、今回のトーナメント表を見た時、僕は思わずニヤリとしてしまいました。2人が在籍する東海大と慶應義塾大の両チームが、第4シード・日立の山に入っていたからです。
日立は第4シードとはいえ、それは昨シーズンのリーグ戦の結果によるもの。つまり外国人の力を借りて勝ち取った順位なのです。オンザコート・ゼロのオールジャパンで重要になるのは言うまでもなく日本人インサイド。残念ながら日立の場合、トヨタや松下電器、三菱電機あたりと比べると明らかに見劣りするのが現状です。竹内兄弟を擁する東海と慶應は、願ってもないブロックに入ったわけで、僕的に今大会最大の注目カードは当然、大会2日目の男子2回戦・慶應vs日立でした。
試合開始時刻の15時20分、僕は日立ベンチ側のゴール裏のエリアで立って見ることにしました。正面に見えるスタンドは慶應の学生服軍団。熱狂的な応援で、学生界では有名な存在です。そして後ろを振り返ると、デジカメを構える女性がズラリ。最前列の人達など、もう身を乗り出さんばかりです。これが噂の「圭様ギャル」ってヤツですか……ただでさえ注目カードなのに、両チームともこれだけ集客力があるわけですから、とにかくCコート周辺だけがものすごい人だかりです。
それはさておき試合開始。注目の竹内公輔は序盤からブロックを連発し、着実にリバウンドを重ねていきます。しかし日立も、ギャルのお目当て五十嵐圭が2度バスカンをねじ込むなどの活躍を見せ、1Qは日立が18-14とリード。2Qも一進一退の攻防が続きますが、ここから公輔のプレイに凄みが出始めます。日立の2mセンター山下洋克と加藤吉宗を完璧にシャットアウト。ことごとくブロックを見舞い、この試合公輔のブロックは実に7つを数えることになります。
圧巻は前半ラストのプレイ。残り時間を見ながらドライブを仕掛けた五十嵐のレイアップを、これまた完璧にハエ叩き! そして、リング真下に倒れ込んだ五十嵐を見下ろすように仁王立ち!! ナショナルチームで仲の良い先輩に対して「俺をかわして決めようなんて甘いわボケ」とは思っていなかったでしょうが(爆)、本当にそう言っていそうなほどの貫禄でした。当然、慶應サイドは大盛り上がり。27-31と慶應が逆転して折り返します。 3Qは互いにミスが出て、膠着状態に。日立は慶應のディフェンスを崩しきれず、菅裕一が1人で点を取って差を詰めようとしますが、慶應も要所で酒井泰滋や加藤将裕が得点するなどして、日立に流れを渡しません。1度失敗したフォーメーション(左45度からのパスで公輔がアリウープ)を直後にもう1度試して成功させるなど、どちらが格上なのかわからない戦いぶり(笑)。それでも、五十嵐が先ほどのお返しとばかりにブザービーター3ポイントを決めて、4点差は変わらず最終Qを迎えます。
4Q残り8分25秒、慶應にピンチが訪れます。酒井が山田哲也を腕で押してオフェンスファウル。これが4つ目となってしまいます。公輔と並ぶ柱だけにこれは痛い……と思ったら、窮地に追い込まれたのは日立のほうでした。どうやら酒井の腕が山田の鼻にヒットしたようで、山田は顔を押さえてベンチに下がってしまいました。山下・加藤では全く歯が立たず、インサイドは195cmの山田だけが頼り。日立としては「どうしようもなくなった」(小野秀二HC)わけです。
酒井を下げた慶應は、その間香川隼人や小林大祐が得点。5分過ぎに酒井をコートに戻した後、残り4分には疲れの見え始めた公輔を一旦下げますが、慶應の勢いは止まらず、残り3分半にはついに15点差。こうなったら日立は3ポイント勝負。五十嵐・菅の他に斉藤勝一・上山博之・佐藤稔浩という5ガードで勝負を賭けてきました。慶應は残り2分に公輔をコートに戻しますが、日立がフルコートプレスでボールを奪うと立て続けに3ポイントを沈め、差はみるみる縮まります。
慶應がファウルゲームに半ばハマったこともあり、残り3秒には五十嵐の3ポイントでついに3点差。すぐに公輔がファウルされますが、ここでも公輔がフリースロー2本目を落としてしまいます。日立のリバウンドから五十嵐が自慢の快足で一気にフロントコートへ持って行き、3ポイントを放ちますが……これがリングを弾いて、72-69で慶應が逃げ切り。学生がトップリーグのチームを破る快挙(大会史上19年ぶり)達成となったのです。

そしてその慶應、準々決勝の相手は東海大、大学勢同士の対決です。インカレ決勝の再現であり、竹内兄弟にとって学生生活で最後の直接対決。組み合わせの妙があったとはいえ、最後まで見せ場を作ってくれる兄弟ですね。彼らが入学した時はどちらも関東2部だったんですから、まさかオールジャパンのベスト4を賭けて戦うとは正直思いませんでした。大したもんです。
試合は東海ペースで進みます。阿部佑宇と井上聡人が好調な東海に対し、慶應は外角シュートが不調。竹内兄弟はというと、序盤はマッチアップしなかったこともあり、あまり目立ちません。2Q、東海がボール運びへのプレッシャーとゾーンディフェンスで揺さぶりをかけると、慶應は約4分半ノーゴール。3Qも開始から6分近く無得点と、流れをつかめません。公輔はゴール下で得点とリバウンドを荒稼ぎしますが、譲次はダンクを見舞うなど要所でインパクトのある仕事をし、全く譲りません。
67‐44で迎えた4Q、まだ慶應はあきらめません。残り8分には公輔が、大学ではほとんど見せなかった3ポイントを沈め、酒井もそれに続きます(公輔は残り3分にもう1本成功)。さらに公輔はバスカンもゲット! しかし譲次もお返しのダンク! 日本バスケの歴史上最も派手な兄弟対決はいよいよクライマックスへ突入していきます。
慶應は残り2分からファウルゲーム。さらにボール運びにもプレッシャーをかけますが、大型ガード石崎巧にことごとくかわされ得点を許してしまいます。そして17点差で迎えたラストプレイ、公輔が左サイドからドライブして渾身のダンク!! あまりの力強さで、勢いあまって着地に失敗し、脚をつって立ち上がれなくなってしまうほど。リーグ、インカレのリベンジはなりませんでしたが、最後に意地を見せたのでした。

……うーん、せっかくの兄弟対決なのに、なんだかあっさりした文章になってしまいました。試合後の会見で公輔が「日立戦で力を出し尽くして、疲労困憊だった」と振り返ったように、僕も日立戦でお腹いっぱいになってしまったのかも。でも、女子決勝で2組の姉妹が活躍して、僕としても2度満腹になったような感じ。やっぱりバスケは面白いですね。
来年もまた、オールジャパンが生み出すドラマに期待! っとそんな先の話をする前に、2007年のバスケもたっぷり楽しまなきゃ。今年も「だむだむ」と音のする場所でお会いしましょう。



吉川哲彦(よしかわあきひこ)

1974年生まれ、東京都出身。
中学1年時はバスケ部に在籍したが、転校した先ではバスケ部に入らず。その後、バルセロナ五輪のドリームチームに触発されて大学でバスケ部(体育会系)に入部。3年時の関西リーグ4部準優勝&3部昇格が唯一の自慢というベンチウォーマー。
26歳の時、周囲の勧めもありフリーのスポーツライターに。一番最初の取材対象に新潟アルビレックスを選び、それ以来取材対象はほとんどがバスケ。カテゴリーを選ばず、ありとあらゆる現場に足を運ぶ日々。
「自分の文章が日本のバスケ界を変える一助になれば……」と秘かな野望を抱いている。
2005年、初の著作「オールドルーキー」(共著・阿部理)がHOOP HYSTERIAより刊行される。

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